■もらい火(延焼)で火災保険はおりる?

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更新日:2022/06/19

カテゴリー: 不動産の豆情報 | 平野の独り言

※もらい火は、放火などの犯罪から起きることもあれば、隣の家など他の場所で起きた火災が延焼してくることもあります。

自分がどんなに気を付けていても防ぐことができないものです。

自分に責任がない火災ですが、万が一もらい火で自分の家が燃えてしまったら、

あるいはもらい火が原因で近隣の家を燃やしてしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか?

もらい火で自宅が燃えたときも火災保険はおりる

もしも隣の家で出火した火災で自分の家が燃えてしまったとき、一般的な火災保険では、特約をつけなくても主契約で損害が補償されます。基本的には、まずは自分が契約している火災保険から保険金がおります。

火災でかかった費用どこまで保険がおりる?

住む家が燃えてしまったら、再建するまでの間に生活する場所を探さなくてはなりません。ホテルなどに宿泊した場合には宿泊代もかかります。

火災保険に契約していれば、これらでかかった費用も火災保険でカバーできます。なお、火災で燃えてしまった部分だけでなく、消火活動によって水に濡れてしまった部分も損害とみなされます。

生活を立て直すまでの間には家具や家電、日用品などを揃える必要もあります。火災保険に加入するときは、家やマンションなどの「建物」と、家具や家電などの「家財」に分けて保険金額を設定します。
火災保険に「家財」への補償をつけていれば、建物の損害だけでなく生活に必要なものにダメージを受けた場合にも保険がおります。

原則として出火元には賠償請求できない

しかし、責任が自分にあるわけではないのに、なぜ自らの保険を使うのでしょうか。責任は火元の人にあるわけですから、自分が被った被害について、その人に補償してもらえないの? と思うかもしれません。

これは、「失火責任法」という法律の定めによります。

失火責任法とは?

本来、民法には「故意または過失によって他人の権利を侵害したる者はこれによって生じたる損害を賠償する責めに任ず(民法709条)」※1と定められており、自分の落ち度によって他人に損害を与えた場合には、相手に賠償する責任があります。

この法律に従えば、損害を与えてしまった人に対して火元の人が賠償しなくてはなりません。しかし、火災を起こしてしまった場合の責任には「失火責任法(失火法)」という特別法があり、
「民法第709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず」※1と定められています。

つまり、火災を起こして他の家を燃やしてしまっても、その家に対して損害賠償責任を負わなくてもよいのです。

火災の責任は火元の人にあるとはいえ、その人が自分の家を失った上に他の人の被害の損害賠償もすると、その人の支払能力をはるかに超えてしまうことになりかねません。このため、火災を起こしてしまった場合は、民法で定める損害賠償のルールは適用しないことになっているのです。

失火責任法で救済されない被害を火災保険でカバー

したがって、他の人が起こした火災のもらい火で自分の家が燃えてしまっても、原則として出火元の人に損害賠償を請求することはできません。自分に責任がなくても、自分の家の被害は自分でなんとかするしかないわけです。

ですから火災保険をかけておくと、自分の責任による火災だけでなく、もらい火で被害に遭った際にも保険がおりるようになっているのです。

過失が重い場合には出火元が賠償責任を負うことも

しかし、例外もあります。失火責任法には「失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず」との但し書きがあります。重大な責任(重過失)によって火災を起こした場合には、火元の人が損害賠償責任を負うこともあるのです。

失火責任法の「重大な過失」とは?

では、重大な過失とは具体的にどんなことでしょうか?
たとえば以下が挙げられます。

  • 寝たばこによる火災
  • 揚げ物をしている最中に、火をつけたままその場を離れて油に引火したことによる火災
  • 火をつけたままのストーブに給油したことによる火災
  • 子どもの火遊びによる火災

これらは、明らかに火災になることが予測されるような状況にもかかわらず、それを防ぐための対策を怠ったとみなされ「重過失」と認められるのです。該当すると、火元の人が被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。

なお、子どもの火遊びによる火災は子どもには責任はないものの、保護者が監督責任を怠ったとみなされます。

重大な過失があっても賠償金を受取れないことも

ただし重過失と認められたとしても、火元の人に支払い能力がない場合などは、もらい火の損害を被った人が十分な損害賠償金を受け取れないこともあります。

また、火元の人に損害賠償責任があるかどうかの判断には、裁判など法的な手続きを経るため長い時間がかかることがあります。火災の原因、火元の人の過失の度合い、賠償力の有無などを検証する必要があるためです。

万が一もらい火で火災に遭ってしまったとき、すみやかにもとの生活に戻ることを考えるなら、火元の人からの損害賠償を待つよりは、任意の火災保険で備えておくと安心です。

賠償金に加えて火災保険を受取れる場合も

なお、もしも火元の人に重過失があると認められ、その人から損害賠償を受け取ったとしても、自分でかけていた火災保険がまったく無駄になるわけではありません。

受け取った損害賠償金よりも実際に自宅が被った損害が大きい場合には、保険会社が査定した損害額と加害者から受け取った損害賠償金との差額分を、火災保険から受け取れます。

また、かりに加害者が損害額を全額支払った場合でも、自宅を修繕する間にホテルに宿泊したなど、建物の損害とは別に復旧のためにかかった費用は、火災保険からおります(これは「臨時費用保険金」「事故時諸費用保険金」などと呼ばれます)。

火災保険を使うと更新時の保険料が上がる?

ところで、火災保険を契約している間に自分の家が火災に遭って保険金を受け取ると、その後に契約を更新するときに保険料が上がってしまうのでしょうか? 自動車保険では事故を起こして保険金を請求すると等級が下がり、翌年度の保険料が上がってしまいます。

しかし、火災保険ではそのようなことはありません。火災保険は保険をかける建物の構造(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など)に応じて保険料率が決まるため、実際に火災が起きたかどうかは保険料には影響しません。

これは、もらい火によって自宅が火災に遭ったときはもちろん、自分の家が火元になって火災を起こしたときも同様です。

もらい火が隣家に延焼しても火災保険が役立つ

一度火災が起きると、周辺の建物に次々と延焼してしまうこともあります。もともとは他の家が火元だったのに、自分の家に燃え広がったもらい火がさらに別の家を燃やしてしまうケースもあります。

そんなときにも、火災保険を活用できます。

上述の失火責任法に基づき、自宅の火災が近隣に燃え移ってしまった場合も、原則として自分が賠償責任を負うことはありません。しかし、燃えてしまった家の人は自身の火災保険で手続きをしなければ、復旧に必要な保険金を受け取れません。

ご近所との付き合いを円満に維持するには、できるだけ燃えてしまった隣家の負担を軽くして解決したいものです。

隣家を延焼させてしまったときに使える「類焼損害補償特約」

そこで役立つのが「類焼損害補償特約」というものです。自身の火災保険にセットで加入していれば、自宅の火災が延焼してしまったときに、近隣の家が受けた損害を補償してくれます。これは、自宅の火災がもらい火によるものだったときも使えます。

類焼損害補償特約を使って隣家の損害を補償するときは、隣家の人ではなく保険に契約している人(火元の人)が、契約先の保険会社で手続きをします。

主契約にオプションとして加入するため、毎年に支払う保険料はその分高くなりますが、建物が密集している住宅地に住んでいる人や、ご近所に迷惑をかけたくないと考える人などは、検討してもよいでしょう。